アイドルを応援することは、もしかしたら婚外恋愛に似たものなのかもしれない――。
宮木あや子著「婚外恋愛に似たもの」を読んだ。dTVでドラマ化されるのだが、作中に出てくるアイドルグループ「スノーホワイツ」の設定が某A.B.C-Zそのものなのだ。
しかも、35歳のアイドルオタク5人の物語というのも俄然気になる設定。アイドルを通してオタクたちの人生の悲喜こもごもが描かれている。これはジャニオタ的には読まずにはいられなかった。
あらすじ
容姿も境遇もまったく異なる5人の女性。共通項は人妻、35歳、そして男性アイドルユニット「スノーホワイツ」の熱狂的ファンであること。ステージ上の「恋人」に注ぐのは、歪だけれど、狂おしいほどにひたむきな愛。たとえ手が届かなくとも、たとえ現実が悲惨でも、「彼」さえいれば、人生は美しい――。女の本音を余すことなく描いた“最凶恋愛小説”。(Amazon内容紹介より)
パワーフレーズのオンパレード
夫婦生活、仕事、育児、など35歳の女性としての生活の中にアイドルがいる。その描写の生々しさやディテールの緻密さに驚いた。とにかく出てくる文章が(多少強すぎるものの)オタクの気持ちそのものなのである。
私もみらきゅんと寝たいよ、と夫には言ったものの、セックスじゃないのだ。一晩中彼を独り占めし、その寝姿を 愛でたい。それだけだ。
男にとってのアイドルはオナニーのお供かもしれないけれど、女にとってのアイドルはデトックスだ。
あれは私の夢の息子。 絶対手に入らないけれど、私が唯一、本気でほしいと願った、いとしくてたまらない息子。
男性アイドルのオタクをしているからと言って、別に彼らと実際に付き合いたいとかそういうんじゃない。そんな感情とはまた別の次元で「好き」なのだ。
オタクの数だけスタンスは異なる
作中の5人のオタクたちはそれぞれ、セレブ主婦・バリキャリ経営者・バツイチ元ヤン主婦・普通の専業主婦・BL小説家。収入も違えば置かれている立場も違う。共通するのは「スノーホワイツのファン」ということ。
それぞれ推しに抱く感情は異なるし、オタクとしてのスタンスも違う。アイドルオタクとしてひとくくりには出来ない、リアルな人間生活が垣間見える。
Twitterを見ていても、好きになったきっかけやタイミングだったり、どういうところが好きなのかというところは人それぞれ違う。良席のためならいくらでも積む人もいれば、テレビの前で楽しむ茶の間だっている。
どんなスタンスであろうと対象を好きだという気持ちの尊さに優劣はないよなあ、なんて思いながら読んでいた。自分のオタクとしてのスタンスは何なのか?ということも考えたくなった。
劇中劇ならぬ、小説中BL小説
登場人物の中に落ち目のBL小説家がいて、彼女が書くBL小説がそこそこの分量で作中に出てくる。
私はBLは読まないし、アイドルを題材にしたBLともなるとちょっとキツイと思ってしまうのでその部分は読み飛ばしたのだが、BL部分に関しては性描写はなかったし、むしろセレブ主婦が自らを噛むことで快感を得るようになったくだりのほうがよっぽど生々しさがあったので、BLに抵抗があってもさほど問題はないとは思う。
まあでも、びっくりしたよねw
作中の他のアイドルたち
スノーホワイツに関連して事務所や他のアイドルグループに関しても少し言及されている。
- スノーホワイツが所属する事務所「ディセンバーズ」
- ディセンバーズのデビュー前のタレントの総称「ノベンバーズ」
- スノーホワイツとほぼ同期で先にデビューした「INAZUMA」
- INAZUMAのメンバーであるジョンくんの出演ドラマ「冬の鯉は鈍色に燻る」
- 全員がアラフォーになってもトップアイドルの座に君臨する「スコーピオンズ(通称:スコップ)」
これだけ見ても、あのグループをモチーフにしているな…というのを薄々感じさせる。
スノーホワイツのメンバーに関する描写はまんまA.B.C-Zなので、それを踏まえて読むと面白さが増すだろう。
アイドルのオタクをすること
作品のタイトル「婚外恋愛に似たもの」。
果たしてアイドルオタクをすることは婚外恋愛に似たものなのだろうか。「好き」という感情がアイドルに向くことを恋愛と紐付けるにはあまりに安易な気もする。(ガチ恋こじらせてオタクやってる人を否定するわけではない。)
でも、非オタクからしてみれば、出演番組をすべてチェックしたり、CDを複数買ってコンサートや舞台に何度も足を運ぶといったアイドルを中心の生活は、恋愛のようなものなのだろうな。
生きていれば良いことも嫌なこともある。でも自担の笑顔でときめきを感じる時間は、何物にも代えがたい幸せがある。そんなことを再認識させてくれた作品だった。
▼6/22(金)配信スタート